ざわ、ざわざわ、ざわ、ざわわわわ―。
与論島の中心産業は昔からサトウキビだ。秋から冬にかけて島を訪れると、そこかしこから葉の擦れる音が聞こえてくる。
「車がなかったころは黒糖を入れた樽をくり舟に積んで出荷しにいった。卸してから、町でおにぎりを食べて帰ってきた。いつも行くのが楽しみだった」
戦前からサトウキビを栽培し、黒糖を作ってきた山下博丸さんは往時を思い出す。
山下さんは今でも島でただ一人、収穫したサトウキビから搾り取った汁を煮て黒糖を手作りしている。サトウキビ一トンから黒糖はわずか六十キロしか出来ず、手間も隙もかかる。そうやって出来た黒糖はわが子同然。山下さんは「一番かわいい者にしか食べさせないぞ」と破顔する。
お菓子が豊富にない時代には、黒糖は子供にとっても大切なおやつだった。
「小さいころに親の手伝いをしたら、『サタニギィ(黒糖を炊いたときに釜の底に残った焦げなどを丸めたもの)』を駄賃にくれた。おいしかったなあ」
島で生まれ育った七十七歳の町繁栄さんは目を細める。
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